もう思い出せないくらい久々に東京都美術館へ行ってきました。
版画の展示会ってあまりなじみが無く、吉田博さんも存じ上げていなかったのですが、美しくて暖かい作品に出合えて、本当に感動したので感想を共有します。
実は木版画制作は40代から始めたものだった!
遠くから見ると日本画みたいだなぁ〜
と思ったのですが、吉田博自身、油画や水彩画で実績を積み上げてきた方で、日本画の作品は描いていなかったみたいです。
木版画の作成を始めたのは1920年から。
大戦中は従軍画家で1950年に他界されているので、30年未満の制作期間なですよね。
なのに!
今回展示されている作品数だけでも194点!
作品制作のスピード凄まじい!!!
怪物か!と思ったら、木版画制作って分業制だったそうです。
- 原画のデザインをする人←吉田博
- 木材にデザインを彫って木版を作る人
- 木版に着色して紙に摺る人
と3ポジションあるのですね。
なので、「待ち」の時間が沢山必要な油画よりは量産しやすかったのかな?と一瞬思いましたが…
思いましたが、それにしても、この作品数は凄い!
2.3のポジションも細かく指示をしていたと言われていて、工程も一般的な版画に比べてかなり多いのです。これだけ美術に没頭できる人生、素敵。
+人を描く
予想外だったのは、思ったよりも日常を描いた風俗画が多かった、ということ。
「猿澤池」や「陽明門」のように、人物をわざわざ描かなくても十分に成り立つ絵にも積極的に人物が描かれているような印象を受けました。
そして、この人物が良い味・趣を出しているのだ。素敵。
一瞬日本画や水彩画っぽいのですが、近くで特に人物を見ると版画っぽさを感じて、温かさが数倍増す気がしました。
それに、着物の人物が描かれていれば、欧米人がこの絵を見たときに「あぁ、日本の絵なのね」って認知してもらえますもんね。展示会で吉田博の生涯をコミカルに紹介した動画が流れていて、その中で紹介された、吉田博の「日本らしさを前面に出した作品をつくりたい」という意志から、意図的に着物の日本人を描いていたのかと感じました。
多分、鳥好き
多分、鳥好きだったんじゃないかな。笑
スケッチブックに沢山鳥を描いていたし、オウムも何作も描いている。
吉田博の鳥の絵ってなんだか他の作品とテイストが違って、若干イラストっぽさもあって可愛いと思いました。
近くで見ると羽のところは木版に無着色で型の跡を付けているような表現もあって、面白い。
「動物園きばたんあうむ」のタイトルもなんだか可愛い。
「ゆらゆら」な表現に引き込まれる
「瀬戸内海集 帆船」の連作、私は「夕」のゆらゆらした表現が好きです。
元々、夕焼け時の非現実的で陸から海の地平線までの一体感のある、暖かくてキラキラした情景が大好きで。その表現がね、すごく巧み。夕焼けの時の一瞬の儚さが、いい意味で素朴な淡い色使いで凄く美しく表現されていました。引き込まれました。
他にも、インドと東南アジアの作品の中の「ヴィクトリヤ メモリヤル」や「フワテプールシクリ」なども似た理由で好み。
吉田博の暖色のゆらゆらした表現が、その空間に引き込まれそうで好きになりました。
スケッチブック
数点、ガラスケースにスケッチブックが展示されていました。
画家さんのスケッチブックって大好きなんですよね。
吉田博の頭の中を覗き見できたような気がして楽しくて。
まめな性格だったのかな?
しっかり忘れないように感じたことを文字も含めて記録してある!という印象。
見開きで大きく描かれています。
覚書
- 沢山の鳥のスケッチ
思うように描けなかった鳥には×印
擬音も付ける
白い羽が汚れてる、など状況も添え書きがあり - インドの象
象の頭上に「高い」とメモ - 従軍画家時代のスケッチ
負傷した兵士達のスケッチや、迷彩柄に日の丸の付いた飛行機
添えられている「トツゲキ」の文字が生々しくて痛々しい
芯の強さとフットワークの軽さが成功に繫る
何かとご存命中は報われないアーティストも多い美術界で、若手の頃から抜群の行動力があって、どんどん周囲の評価が高くなり、成功を掴んでいく人生。(自費で渡米、海外で初個展、などなど)
今回の展示会だけを見ると、若い頃から自信満々で挫折知らずの栄光の人生という印象。
スランプとか陰りの部分、あったのかもしれないけれど(途中従軍画家になったりもしてますしね)、展示会ではあまり取り上げられていませんでした。
自分の信念を曲げずに、報われる場所を自ら選び取って直向きに制作に励む力。
描きたいものがあれば可能な限りどこでも見に行っちゃう。
やっぱり行動力って大事だなぁ。
(私も、なんか凄いな〜で終わらず努力できるように頑張ります。)
宝物(ミュージアムグッズ)
この画集2,200円は本気で安い!
ミュージアムショップで欲しいものを思いっきり買えた時ほど、働いていてよかったと思える瞬間はありません。笑
最後に
こちらの展示会は3月下旬まで開催されています。
日本人として、知っておきたい、知ることができて良かった、と思うアーティスト。
是非、一人でも多くの方に見ていただきたい展示会です。
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